夜巡る、ボクらの迷子教室

2017年11月にSAMOYED SMILEから発売された、夜巡る、ボクらの迷子教室の感想になります。

ED曲が某バンドのそれに似ていると話題になっていましたね。

エロゲソングとしての注目度もそうでしたが体験版が面白かったり、私は正直良くわからないですが、同人では名の知れたライターが二名参加していたりと俗に言うシナリオゲーが好きな方の注目を一手に引き受けていた気がします。

あとは赤木リオさんを始めとする人気原画家も起用されているので、中々に総合力の高い一作として期待されていたのではないでしょうか。

私は当時買おうか迷った挙げ句、seal系列、複数ライター、綾子さんがサブキャラということで敬遠したのですが、結果的にそれは正しかったなと……悪いゲームではないと思いますが複数ライターの弊害がモロに出ていました。

共通ルートは本当に良かったのですが個別、個別が……。

以下は詳細な感想(一部ネタバレ部分は反転で読めるようにしています)。


◆ルート構成&シナリオ

攻略ヒロインは小清水、りこ、きなの三名。

特にルートロックはかかっておらず、選択肢の積み重ねで一番好感度が高いヒロインのルートへ分岐するというポピュラーなタイプですね。


ストーリーは以下の通り(公式サイトより)。

「今残ってるウチの生徒達を卒業させろ」
教師という職に失望し、腐って生きていた主人公はとある病室で、袂を分かっていた父親から依頼を受ける。
その依頼とは、来年で廃校になる夜間学校の教師となり、残っている生徒を卒業させる事。
報酬として告げられたのは、父の莫大な遺産。
晴生の曇った心を動かすには十分な額であった。
夜間学校「藤原学園」―そこは、レールを外れ、ドロップアウトした生徒が集う場所。
そして亡き母親が残した思い出の場所……
教壇に立つ主人公と向き合うのは、たった3名の生徒と、その中の1人の娘である少女。
彼女達は「卒業」というゼロスタートを目指し、彼は手にすることが出来なかったものを求めていく。
どこにいても、みんな同じ時を刻んでいる。
だけど、皆に同じ幸せは舞い降りてこない。
そんなアンフェアな人生に僕らは――


基本的には挫折を経験し、苦悩に囚われる主人公と何らかの問題を抱えるヒロインたちが、夜間学校というワケアリな者しか居ない空間で一緒に過ごしていく中で自身に巣食う何かを打ち破り、再生を果たしていくというストーリー。


本作の良いところの一つに主人公である藤原晴生先生のキャラが立っていたというのがありますね。

若手とは言っても社会人なだけあって落ち着いて一歩引いた立場で子供たちを導く良き先生として立ち回ってくれていたと思います。

またその先生としての良さを見せる上で本作は授業風景がしっかり活かされていました。

エロゲにおける学園モノの授業風景ってざっくりカットされていたり、申し訳程度に学園生として勉強もやってますよみたいなテキトウな描かれ方をしているのが非常に多いです。

本作では主人公の先生としてのスタンス、内に抱えた挫折や現在の状況からくる悩み、生徒一人一人の個性を出す場、先生と生徒の交流を描くことに成功していて、夜間とはいえ「学校」というステージを上手く使っていたと思います。

学園モノが異様なまでに溢れているこの媒体ですが、本作は学園でやる意味をきっちり出していたので良かったですね。

本作で良く使われるフレーズの一つに「教師は生徒のもう一人の親」というものがあるのですが、これ自体はありきたりですけど、進めれば進めるほど味の出てくるものになっていました。

もう少し晴生先生の話を続けると彼は優秀な教師であった母親に憧れ、同じ道を進んだものの最初に担当した学校で反抗的な生徒やそれを守る学校というシステムに理想ごと潰されてしまったという過去がありました。

その潰された状態でストーリー紹介にあるように遺産目当てで再び教鞭を執り、夜間学校の生徒たちと触れ合うことでまた理想を追い求める良き先生としての姿勢が蘇っていく、というカタチになっていきます。

ここで面白かったのは晴生先生にとって生徒というものは導くものではあるし、親身に接するものの特別なものではなく、遺産を手に入れるための、自身が追い求める母親の姿へと近づくための道具というところなんですよね。生徒を見ているようで見ていないこの微妙なズレ。

この辺りがどう変化していくのか、生徒をそうしたカタチで使っていることを自覚した時の心への負荷、そして生徒にもしもその心の内を見透かされてしまったらどうなるのか、というのが迷子教室の見どころポイントの一つですね。

本作は晴生先生ゲーと言っても過言ではないので。


勿論ヒロイン自体も皆問題を抱えるものばかりなので、そちらもピックアップされます。

お互い何かを抱えた者同士、どう関わり合って進んでいくのか。
社会のレールから外れた落伍者は幸せに到れるのか。

こういったものが良い感じに展開されていくのですが、残念ながらピークは共通ルートまでで後は右肩下がりだったかなぁと……。

何がダメかと言うと個別に入った瞬間、ヒロインはまあ少し……くらいで済んでいるんですけど、晴生先生のキャラがルートによって盛大に壊れてしまっているんですよね。

特にきなルートは原型を留めていないレベルでバッキバキなので共通ルートの晴生を好きになった身としては地獄も良いところでしたね……。

これは統率するべき立場の人が管理能力不足というのもあるのでしょうけど、正直担当のライターもかなり問題アリに思えました(普段の異様なはしゃぎっぷりも酷いですが、教室花火に至ってはとてもじゃないが正気の沙汰とは思えない)。

個別ルートがどれもイマイチ足りないって言うのは確かなんですけど、本作を直接死に至らしめた原因はやはりこのキャラ崩壊の部分かなと。
プレイ中に「は?」 って素で声出したのは初めてですもん。
非常に残念です。


以下個別ルート雑感。


◆小清水ルート

……ヒロインとしてのキャラは一番好きだったんですけどねぇ。ルートとしての出来は最下位でした。

体験版で既に判明している通り、親と不仲な家出少女ということで家族問題が描かれます。

ここまではまあ良いですし、小清水との距離を縮めていく様が物凄く雑(猫の茶番など見るに堪えないレベル)でため息とか晴生先生依存度が一番高い小清水なのに先生が自分たちの面倒を見る背景に大きなカネがあった問題の処理の仕方がテキトウとかはこの際置いておきますけど、メインたる家族問題の解決方法が私がいつも忌み嫌っている「盲目的な家族信仰」でございましてはい。

別に私は家族愛とかそういうモノが嫌いなわけではないんですよ。インターステラーのビデオレターでボロ泣きするレベルなので。

では何が嫌かってこの小清水ルートなどの不仲な家族との和解を描いた作品の多くで「家族だから」とか「血が繋がっているから」みたいな糞の役にも立たない理由を印籠のように和解への決め手や信じる理由として掲げてくるからなんですよね。

そんなので今までの関係や仕打ちを帳消しにする理由になるの? 信じるに足る材料になるの? って心の底から疑問なんですよ。分からないし、納得できない。受け手を頷かせる力がない。そもそも和解する必要ある? となりました。

正直な話、小清水自身の歪み方や晴生という先生との交流やそれを受け入れていく姿が自分に重なるところがあったので小清水はやてというキャラにかなり感情移入してたんですけど、裏切られましたね。

このルートでは同じく家族間の問題を抱える晴生先生サイドの和解も描かれますが、そちらも投げやりでもう……。
ちなみにキャラ崩壊もきなルートに比べれば可愛いものですが、あります。

家族問題なしにしても全体的にライターの力不足が目立ったルートでした。



◆りこルート

好き嫌いは置いておくとして一番出来が良かったのではと思うルート。
何より恐らくは担当者が共通ルートと同一人物であろうということが大きいですね。

キャラに違和感を覚えず進められることの幸福なことよ(まあ後半はやや違和感ありますが)。

内容としてはこちらも家族モノで綾子・りこ親子の関係がメインに描かれます。

綾子さんがシングルマザーになった経緯、育児疲れからくるネグレクトを経てりこの母親として復帰し、現在に至る様などが語られます。

ここまででも中々ヘヴィですが、共通ルートでも予兆があったようにたった一人の娘のために仕事と育児、更には通学と重すぎる負担を必死で背負っていた綾子さんが再び壊れていく様がじっくり描かれ、それと並行してりこが母親に負担を掛けないように手の掛からない良い子を演じていことによるストレスで心身を壊していく様も見せてくれます。

お互いがお互いを思ってるが故にすれ違い、身をすり減らしていく、どこもかしこもボロボロな門倉家問題は見応えがありました。
特に限界を迎えた綾子さんの叫びの数々は声優さんの名演と同場面で使われるあるCGも相まって印象に残りましたね。りこルートの白眉だと思います。

そして迷子教室は晴生先生ゲーなので門倉家の問題が終わると今度は晴生先生の問題にも焦点が当たります。

ざっくり言うと理想として追いかけていた母親に教師という職であるが故に実の息子である自分よりも生徒を優先されて全くかまって貰えなかった寂しさを幼少の頃から傷として抱えて生きてきた晴生先生の内面が描かれます。

この晴生先生のマザコンによる傷を癒やすために同じ様に良い子である演技を無理して続けてきたりこが母性を持って救うというのは分かるんですけど、個人的にこれを無理にりこでやる必要あったのかな? という疑問が残りましたね。

母性に飢えていたならそれこそ生徒な上に年上の綾子さんに救われる展開のほうが自然だと思ったんですけど、どうなんでしょうねこれ。私が年上スキーだからかしらん。

ともかく面白いルートではありました(正直ガチロリのりこに甘える晴生先生キモくて受け付けない部分もありましたが)



◆きなルート

ストーリー自体は好きではあるのですが、あまりにも酷いキャラ崩壊によって私の心が死んだルート。

キャラ崩壊についてはある程度上で書いたので省略しますが、本当にライターは反省して欲しいところです。

クールで大人だったはずの晴生先生が何の前触れもなく教室花火を行ったことは伝説として語り継がれることでしょう。

内容としては唯一家族から離れた話で、虫に異様な恐怖を抱くきなの内面に触れることになります。

虫への恐怖の原因となったいじめの描写はありがちとはいえ陰惨の一言。
そこまで長い尺は割かず、コンパクトにまとめてあるのにきなの絶望具合がこれでもかと伝わる内容になっているので、この点に関してはこのお見事と言っておきます。

このルートで巧いなと思ったのはきなが大きな理由もなく理不尽に虐められてしまう理由もほんの、ほんの少しだけ分かってしまうところかなと。
これはちょっと分かる人とそうでない人が出てきそうですが、なんというかきなみたいな鈍くさい善人がマイナスに見えてしまう時はあるよなぁと。私がクズだからかやはり。

きなの内面やいじめの描写。その後の偶然にもいじめの主犯と再会。相手は何も覚えておらず平和に暮らしていた。そのことが許せず相手のバイト先のコンビニで殴りかかってしまう辺りは良かったのですが、最後の最後の落とし所が少し安易だったのが心残りですかね。

とはいえ惨いレベルのキャラ崩壊にさえ目を瞑れば悪くないルートでした。



◆CG・音楽など

迷子教室の良い点は人気と実力を兼ね備えた原画家を揃えているので、絵の質が良いことがやはり挙がってくるかと思います。

絵の質という点では迷子教室はシナリオ的にここには一枚絵が欲しい! というところにはきちんと挿入し、場合によってはワンシーンでも複数枚のそれを使っていたのでより場面場面を光らせていて良かったです。

この辺りはフルプライスですがヒロインの数を絞ったのも功を奏したのかなと。

イメージ1808

お気に入りのCGの一枚がこれですね。

私がキャラが泣き叫ぶシーンに大変弱いオタクというのもありますが、もうこの小清水の表情は万感の一言で素晴らしいなと。

小清水の抱えていたものが表情から見て取れる一枚です。お見事。

また歌に関しては事前の公表どおり、各キャラルート専用EDソングが設けられていたりと気合が入っておりました。

OPのメモリーと小清水EDの夜煙ダッチロールが特に良かったですね。
反面、OPムービーは構成は良いものの製作者の技術が追いついてない感じでぎこちなかったのが残念でした。

あとは特定のシーンでヒロインの心の声が聴ける逢魔時モードという手垢塗れシリーズの裏の顔システムみたいなものがあるのですが、こちらは正直行間から十分読み取れる内容をボソッと一言漏らすだけだったのであまり意味がないシステムだなぁと思いましたね。


◆えっちなしーん

seal系列だけあってそれなりに内容は良かったと思います。

アブノーマルなプレイはないので濃いとは言えませんが、和姦モノとしては綺麗な絵と十分な尺もあり最低限の役割は持てるかと。

以下はシーン数(同一シーンはまとめて一つとして扱っております。またあまりに短いものはカウント外にしました)。

小清水……4
りこ……5(本番4)
きな……5(本番4)
綾子&りこ3P……1


感想は以上になります。