Erewhon


2018年7月にCLOCKUPから発売されたErewhonの感想になります。

阿久津監督ラインの新作/ライターがeuphoria・夏ノ鎖の浅生詠先生/原画が姦染シリーズなどで有名なジェントル佐々木先生/供給が少ない乱交・輪姦が多い抜きゲということで注目度が高かったのではないかと思います。

私個人としてはこのラインの前作(ライターや原画違いますけどね)・眠れぬ羊と孤独な狼がかな~り微妙だったこともあり、エロ以外は程々に期待していただけだったのですが、思った以上に良いものを出してくれたなぁと。

エロ、シナリオともに良い一作でした。体験版をプレイしてピンときた方にオススメです。

以下は詳細な感想(一部ネタバレ部分は反転で読めるようにしています)。

◆ルート構成・シナリオ

攻略ヒロインは十子、稀世良、サエの三人。
選択肢による分岐はありますが、その数は少なく攻略順もほぼ固定です。

最初に選べるのは十子/稀世良ルート。クリアするとサエルートが開放され、その後は取り替え子編→廻歴編と一つずつ増えていき、進める毎に来待村の実態が明らかになっていく構成となっています。

構成としては悪くないと思いますが、ルートロックを掛けたほぼ一本道の割には最後の最後でエンドを多めに用意していたのが用いた構成と噛み合ってないのかなと。

Erewhonという物語で必須だと思った常楽我浄EDと悪夢の果てED以外は切り捨てたほうが締まりが良く、作品としての力も増したかなと思うんですよね。ギリギリあっても許せるのは雪の果てEDでしょうか。

あれは十子が作中で言っていた理想世界に辿り着いたEDだったので。ED到達後に雪景色に変わるタイトル画面と合わせて雪が好きだ~発言も効いてきますしね。まーでもやっぱり蛇足気味。

ストーリーは以下のような感じ(公式サイトより)。

きっかけは一冊の手記だった。
偶然手に入れた手書きの手記に記されていた“地図にない村”。
そこは――

狂い咲く椿、一足早い紅葉、沢山の赤い花々。
気が狂いそうに赤い森に囲まれた山奥の寒村、来待(きまち)村。
青年はその村に来訪神(まれびと)として迎えられる。

ようこそ、おいでくださいました。御廻様(おめぐりさま)。
今年の祭りは二十年に一度の特別な式年大祭でございます。
この者たちは、この特別な年に訪れる御廻様のために生まれ育った斎(いつき)の者たちでございます。
ふたりは毎夜交代で伽に参ります。
村の美しい娘を一夜妻として神に差し出す……
これは古代からつづく大切な斎の儀式。
神を歓待するための、神聖な行為なのです。


基本的には人生に疲れて村に迷い込んだ余所者の主人公が神様として歓待される内に村の風習に触れていき、やがて今の村の成り立ちやその暗部にも踏み込んでいく、というもの。

本作はミステリ作品ではなく伝奇モノですが、横溝正史の八つ墓村みたいな感じをイメージして貰うと良いかと思います。重なる部分もそこそこあるので。


前半は村の狂った因習を余所者視点から見ていきそれに飲み込まれてしまったり、後半はその異常な村が出来るまでをじっくりと。そして最後には……という結構王道を征くモノだと思いましたが、本作を良作たらしめているのは圧倒的なグラフィックとしっかりと掘り下げられたキャラクターの魅力、それをアシストするテキスト、悪意の描き方、タイトルの「Erewhon」や冒頭に引用されるカール・ブッセの「山のあなた」の詩から来る様な理想郷を追い求める物語として良くできていたことだと思います。


ただここで一つ言っておきたいのが、「理想郷を追い求める」部分は主人公の幸仁だけのものではなく、お話全体に適用されているものだということ。
なのでプレイする時はあまり「主人公」という肩書きは意識しないほうがより楽しめるかなぁと思います。

悪意に満ち満ちた村の中でそれぞれのキャラが追い求める理想郷に辿り着くことができるのか。
美麗なグラフィック、単体の曲としての印象は弱いもののシーンに合わせると非常に感情を揺さぶってくる正しくBGMとしての役割を十二分に果たした和風BGM、声優さんの熱演、スタッフが抜きゲーと宣言するのも頷ける濃厚なエロも合わせて非常に見応えのある物語となっています。

気になった方は是非にプレイしてみてください。

難点は序盤に位置する十子/稀世良ルートがエロに乗り切れないとやや退屈気味なのと上で書いた蛇足気味のマルチエンドですかね。


以下はネタバレ全開キャラ雑感。自己満ポエムです。

◆十子

作中最強と言っても過言ではない聖者。美壽々さんが後天的な人ならざるモノとするならば十子は誕生の経緯からしても先天的な聖者なんですかね。故に美壽々さんとの相性は最悪で何をどう動かそうがあらゆるルートで十子は美壽々さんから嬲られる訳です。

それでも跪かない規格外の強さだから手に負えないんですけど。壊すことは可能なんだけど、負かすことはできない。そんな敗けずの女神さま。こういうのが一番厄介なんですよね。

自分より他人。個より全な思考の持ち主(後者はややズレてる気もしますが)。
なので幸仁がいくら十子を求めようと十子が真に応えることはないのが切ないですね(そもそも幸仁が十子に向けた感情は自分では恋愛と言っていましたが、個人的にはそれは思い込みで、向けていたのは救って欲しいという願いかなぁという感じですが)。

性質が性質なので一人一人に愛のようなナニカを与えてはくれるけれど、一人に愛を求めてはくれないんですよ。Erewhonで迎えたいくつかの結末のように無理やり打ち砕いてしまうか好きなようにさせて一歩離れたところから眺めることしかできない宝石。

誰とも結ばれるタイプじゃないだろうけど、特に幸仁のようなどこまでも一般人な人とは何がどう転んでも結ばれんでしょうなぁ。
なので幸仁タイプの空っぽな凡人の私にとってはむつかしい存在でしたね……滅茶苦茶綺麗で触れることも出来るのに絶対に手に入らないんですもん。
その癖一番救われないのは十子自身なんだから堪らないしやっていられない。

美壽々さんが居る限りは十子が望んだ真っ白な哀しみのない世界は訪れませんよねぇ……南無。
あまりに綺麗すぎて最後の笑顔のCG見るだけで泣けて来るんですよね、この子。今でも十子のことを考えると胸が苦しくなるレベル。もうちょい十子という人間の描写は欲しいかなぁという感じでしたが。

あ、あと私は声優のヒマリさん好きなんですけど、十子に関しては一部非常に棒だったのがアレでしたね。
祭りで紅姫になった演技をする所とかサエルートラストで稀世良たちに捕まった十子が幸仁とサエを逃がすために名前を呼んで「いけぇぇぇえええええ!」と叫ぶシーンはあまりに棒過ぎて笑ってしまいました。


◆稀世良

扱いに不満を覚えた人がそれなりにいそうな感じがする物語冒頭から美しいCGとエロで結構なインパクトをプレイヤーに与えたメフィストフェレス的な雰囲気を漂わせるロリ。

クリアすれば存在自体は必要なキャラかつ後半の空気ぶりもしょうがないよねというのは分かるんですけどね。
やはり輪姦や乱交が殆ど無かったのが大きな不満ポイントでしょうか。

幸仁を一目惚れみたいな胡散臭い理由で追い回しつつ堕落の道へ引きずり込む悪魔。
でもそれは全て稀世良なりの愛によるもの。

祭りを終えた際の交わりで幸仁の試しに発してみた「好きだ」という言葉一発で絶頂してみせることで言葉では胡散臭すぎて信じられなかった一目惚れがガチガチのガチだったということが判明するのはちょっと笑いましたね。

でもこういうセックスで何かを表現するというのは非常にエロゲな感じで良いと思います。
あの永見家の娘なので村思考に汚染されてはいましたが、稀世良の本質自体は割と普通な女の子でもあるような気がします。
この幼さで村に染められているのでそこから出ることはできないし、その狂った考えを改めさせることもできないだろうということが悲劇ですが。

あと十子と違って幸仁と一番相性良いでしょうね。
空っぽな男をひたすら甘く甘く溺れさせてくれる娘ですから。そういう意味ではやはり悪魔なのかもしれません。



◆美壽々

聖者に近い清い人を悪堕ちさせるとこうなるという良い例。
Erewhonで最も力が入っていて恐らくは夢中になった人も多いであろう過去編の主人公にしてErewhonの裏主人公。

来待村という名のアクアリウムの支配者。しかもぶっち切りでエロい。最強の闇熟女ですよこれは……八千代さんや千鶴江さんもそうですけど、現代でのエロがもっと欲しかったと思いませんか……?

清く正しく永海家の人間として生きていたのにある日突然全てを奪われた上になんとかその状況を打開しようにも周りは同じ永海家の人間とは思えぬ役立たずだけ。

それでも尚一人で奮闘を続けるも心の支えだった永海の宝である「姫」がただ餌を貪るだけの肉人形だったということを知ってしまった上にその支えだったモノ自体を喰らわされることで無事に完堕ち。

悪いことなんて何もしちゃいないのに何もかもを奪われ、最後の最後に永海の巫女としての誇りと人としての生まで奪い尽くされたその様は壮絶の一言。
不老長生の鎖に繋がれ暗い喜びに取り憑かれた復讐者の誕生でした。

まだ人の情はある八千代さんやひたすら巻き込まれ体質で弱いだけの千鶴江さんとの差は歴然。

いやー過去編は濃厚でしたね……シナリオもそうでしたが、杉原茉莉さんの演技がまた凄いので圧倒されるばかりでした。ボイス登録したのも専ら美壽々さんのそれでしたし。
にしても村全体への復讐をするのに誰よりもひたむきに永海の技術を吸収していたその真面目さが役立っているのは皮肉。
彼女を斃せる人間はいないでしょうね。


◆幸仁

阿久津監督か誰かのスタッフコメントであったようにどこまでも一般人な主人公くん。決して悪い意味ではないです。

能動的に動こうとするところもあるけれど、彼はどこまで行っても一般人。ヒーローでもなく、悪役でもなく、一般人です。

十子のような綺麗すぎる聖者になる器はないし、美壽々さんのように目的を果たすために人ならざるモノになる気概もないです。あくまで人。「お前、今年の凄い神様だから何やってもええで」と言われても何だかんだ宛行われた女の子にしか手を出さない。
異常の中に放り出されても通常であろうとする、一線を踏み越えることができない極めて普通の人間です。

こう書くと所謂ヘタレ主人公みたいに思えちゃうかも知れませんけど、そういうのとはまた違ったタイプ。
彼の考えや行動にある種のシンパシーを持つ人はそれなりにいるんじゃないかな~と思います。
むしろ私がそうだったので安心するためにそう思いたいんですけどw。

真っ当に人並みに生きようとする意志というか判断力や義務感はあるにはあるし、物事に対して何かを働きかけようとしたり、欲や願いもある。普通の人。

でも普通と違う点が一つだけあって、どうしようもなく乾いてるんですよね。
欲や願い、意志はあってその上どれだけ昂ぶったとしても本気になることはできない。
やろうと思ってもできない/続かない。だからあるゆる意味で上っ滑りで薄っぺらい。空っぽ。

そんな彼が自分の軽さで十子を覚醒させてしまったことに洞窟内で気づくシーンはここ数年で触れてきた創作物の中でぶっち切りで好きでしたね。
あまりに好きなんでTwitterで浅生先生にその呟きを捕捉された時は無駄に嬉しかったです(隙あ自語)。

「あんな……上っ滑りの……ただどこかで聞いただけの……耳触りのいい……俺の……言葉が(中略)君の中で……宝石になってしまったんだ……君の中で……本物になってしまったんだ」

もうこの文読んだ瞬間に勝ちを確信しましたよね。Erewhonの優勝ですよ優勝。
ここからがまだお話としては長いんですけど、既に勝利してしまったので私の中では消化試合感すらありましたもの。


◆グラフィック+えっちなしーん

Erewhon語る上ではやはりこの二点は外せませんね。

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体験版でも出てくるこの二枚見てもらえると分かると思うんですけど、キャラや背景がそれぞれ単品で素晴らしく美麗なのは勿論のこと、それらを組み合わせて描けているのがお見事なんですよね。

未だに全面にキャラを押し出すために無理に物凄く斜めの構図を取ってくるゲームがありますが、本作はそういった無理のある構図もなく、本当に背景をCGに活かせていたと思います。とても惹き込まれました。

ただエロ重視なあまり通常CGの枚数がやや喰われ気味だったのが惜しいかなとも思いました。
いや、エロ重視なのは本当に最高なんですけど、ここでCG欲しい! というところになかったりしたのでそこだけが残念でしたね。

シーン数に関しては以下の通り。
残念なことにシーンとして元々一体だったものが、回想上ではフェラ/前戯と本番で分離させられてしまっているのが幾つかあるのでそういったものは纏めて一つとしてカウントしています。

十子……17
稀世良……15
サエ……10
美壽々……3
八千代……1
千鶴江……1
美壽々&稀世良3P……1
美壽々&稀世良&モブ複数……1
美壽々&八千代&千鶴江&稀世良&モブ複数……1
美壽々&八千代&千鶴江……2
美壽々&八千代&千鶴江&モブ複数……1
モブ……5

多すぎぃ! 文句など出ようのない大ボリュームです。

また事前の宣伝通り輪姦と乱交が大半を占めるのでそちらの属性持ちの方には堪らない内容となっています。枯れますよこんなの。これで抜けないのはインポだけでしょ(確信)。

また嬉しいのがフェラ描写がかなり濃厚なのとモブのエロが幾つか用意されていることですね……性癖直撃過ぎて幸せでした。

フェラ、輪姦、乱交というワードに反応する方は早く買ってくださいね。

あえて不満を言うなら現代での八千代さんのタイマンエロがゼロなのと人妻三人組のエロがもっと欲しかったこと。
できれば纏めてではなく単品で(強欲)。ていうかFDなりアペンドなりでなんとかできませんか? クソエロ熟女最高なんですよ……。

あとはお話上仕方ないにしても稀世良の輪姦が欲しかったことと十子の演技している状態での輪姦が精神に辛すぎて使えないよ! ってことぐらいですかね。

また、人によっては卑語全開なテキストとアへ顔オンオフ機能削除した割には多めだったアヘ顔がErewhon自体の雰囲気を壊していると感じるかもしれません。

個人的にこの辺を突っ込むのはみどりのアレに対してと一緒で野暮かなぁと思いつつもやっぱり少し気にはなりましたね。
特にアヘ顔はこの量あるならオンオフは付けるべきだったかなと。


感想は以上です。
久しぶりにオススメ! と言いたくなるゲームでございました。