商業テンプレのコピー


2016年9月にオーガストから発売された千の刃濤、桃花染の皇姫の感想になります。

ユースティア、大図書館と出来の良い作品を続けて送り出していたメーカーなので、私としても本作は首を長くして非常に期待して待っていたのですが……面白いことは面白いんですけど、不満点がかなり多い作品になってしまったなぁと。

オーガストらしからぬ雑さと腐ってしまっている設定、ヒロインルート制の崩壊が目立ちましたね……それでも相変わらず一級品の演出やグラフィック、その他諸々のお陰で良作と呼べる出来に仕上がっているのは流石ですが、それらを活かすシナリオがボロボロだったのが辛い所。

ラストの締めもそれまで据えていたテーマからブレており、作品全体がぐらついているような印象になってしまいましたね。

トータルで見るならクオリティが高い部分が多いので元は取れると思いますが、シナリオだけで全てを決める人には恐らく最低ランクの扱いになるかと思います。

以下は詳細な感想(一部ネタバレ部分は反転で読めるようにしています)。

◆ルート構成

攻略ヒロインは朱璃、滸、古杜音、奏海、エルザの五名。

加えて睦美、紫乃、小柚の三名にオーガストではお馴染みのAppendix(余談)モードにておまけルートが用意されています。

また本作のルート構成は過去作・穢翼のユースティアと同じく、章ごとにスポットが当たるヒロインが変わり、その章の終盤にそのヒロインに肩入れするか否かを選んでいくものとなっています。

他社作品で言うならG線上の魔王や運命予報をお知らせしますと同じ方式ですね。
実質的には一本道となります。

こういう方式を採ると、ヒロインがメインとなる章の中……共通ルートでそのヒロインが抱える問題等の大部分が語られてしまうので枝分かれした後、個別ルートでやることがなくなりがちなのですが、本作の大きな問題点の一つは正にそれでしたね。

まーとにかく個別ルートが短い上に雑。
共通ルートでヒロインの問題が片付きました→個別ルートです→デート一回して終わりとかそんな感じのパターンばかり。

仮にも複数ヒロイン制を採っているゲームでこれはどうなのかなぁと。
というか後に明かされる設定なども踏まえるとこの方式崩壊してるんですよね。


別に個別でメインの問題放り投げるというか濁すのは構わないんですけど、ではヒロインの可愛さを掘り下げたりするのかといえばそういうこともなく、本当にテキトウに片付けてセックスさせた! ノルマ達成! と言わんばかりに一瞬で終了するので「えぇ……」ってなるんですよね。

一般的なエロゲはこうだから取り敢えず僕らもヒロイン複数用意してルートのようなものを作りました! 的な雑さが出てしまっている。

枝分かれさせる意味が感じられず、最初から朱璃一本道にして他は全部余談にでもぶち込めばという内容になってしまっているのが大問題。

なんというかこう、後でシナリオについての方で書くことも合わせて作品の軸が定まってないような印象を受けるんですよね。
今作はオーガストにしてはやたらと脱字が多かったのも気になりました。


◆シナリオ


本作の分類は架空戦記(戦記、というには色々物足りないですが)で良いんですかね。
国を滅ぼされたお姫様が、その発端となった裏切り者と外敵を排し、国の再興を目指すお話。

その悲願を達成すべく、亡国の姫であるヒロイン・朱璃とそれに付き従う主人公・宗仁は地下で身を潜める反政府組織に属し、物資等を集めながら決起の時を待つ、と。
緩めの水滸伝みたいなのをイメージすると良いと思います。


このようにストーリーやメインに来る要素を見るとユースティアのようにシリアス全開な雰囲気が漂っていますが、事前情報でもわかっていたように本作には戦記的要素の他に学園要素(あとアイドルとか)もあったりします。

結論から言うとこれらの食い合わせが悪かった、というか作品の不安定さを増すだけの要素だったなぁと。

一応、学園は支配される側(皇国)と支配する側(共和国)が共存していて、ディベート形式の授業や個人の交流を持ってある程度穏便に皇国・共和国の立場を伝える場、二ヶ国の交流の場として機能している……のは本当に最初だけだったのがなんとも。

交流しているのも顔有りのキャラだけで意見を戦わせるのも顔有りだけ(モブは騒ぐだけの暴徒みたない扱い)。

加えて共和国側の正当性を訴えるのがエルザだけなのもアレですし、そのエルザも徐々に皇国側にシフトしてしまうのがもう(まあ一応皇国マンセーに待ったを掛けるキャラはもう一人いるのですが、いかんせん活躍期間が短い+出て来る頃には話が別の方向に向かっている)。


学園での様子もそうなんですけど、本作って国がどうこういう話の割に民衆やその他モブの描写がかなり少ないんですよね。

共和国に結構な弾圧を受けてます~というような一文は出るもののそれ以外の描写では平和そのものだったり、武人は男が大半ですと言いつつ顔有りは宗仁と数馬だけでモブの描写は皆無(これが後の大規模な戦いの薄っぺらさに繋がる)。

作中のそれだけ見るなら女のほうが多いのではと思ってしまうレベル。
武人の女の不妊設定も意味不明でしたしね。武人社会の頂点に立つ三祖家筆頭の稲生家なんて滸しかいないのだから大事な血筋が絶えてしまいますし(あれだけ皇国皇室の万世一系史観を出しておいてこれは杜撰極まりない)。


この設定はオーガストではブランドイメージ的にまずやらないでしょうけど、皇国に駐留している共和国軍が夜になると皇国民相手に好き放題やり始めるとかいう描写がほんのちょっとあったのでそこで陵辱エロやより敗戦国の惨めさを出すために付けましたってのなら分かるんですけどね。

なんというか本作は本当に腐っている設定が多い

滸のアイドル設定もなくても問題ないレベルでしたし、発売前に良く出されていたエルザは皇国文化は基本嫌いだけど足湯(風呂)が好き~なんかのヒロイン個別趣味や好みの設定も本編ではノータッチ。余談でちょっとだけ使われるだけと……うーんこの。

この辺りを結構丁寧にやって作品世界をプレイヤーに見せていたユースティアと比べると随分と堕ちたもんだなと思ってしまうんですよね。

別に何から何まで詳細に描写しろなんて阿呆なことは言いませんが、それにしたって余分な部分は多くて必要な部分は足りないというものが多すぎる。


滸の無理がありすぎるアイドル設定や学園要素のやっつけ感その他諸々を見ていると、これらは全て後付の要素なのかなぁと勘ぐっちゃうレベルなんですよね。全体から見てかなり浮いてます。

そしてそれがそのままこの作品の軸がブレている感じ、不安定さに直結しているのかなと。

こういうちょっとハードというか普通の世界とは違う世界を描いた作品で大事なのってどれだけぶっ飛んだ要素があろうとも作品世界を丁寧に構築し、それをプレイヤーに見せてその世界での有り様を受け入れさせることだと思うんですけど、本作はそれがまるで出来ていないんです。

物語にリアルはなくても良いですが、リアリティは必要なんですよ。


あと滸と宗仁は幼馴染という設定がありましたけど、宗仁の正体は2000年位前に朱璃のご先祖様が造られた皇国に降りかかる厄災を全て斬り伏せるための兵器ということが後半で明かされるんですよね。

宗仁はこの設定があるので不老不死です。滸が幼い時にも宗仁の見た目は変わりません。
ここで滸は宗仁が普通の人間ではないということに気付いてないといけないんですけど何にも触れられませんでしたね……奏海も同様に気付かないとおかしい。

その上滸、奏海、エルザ編ではこの真相が明かされないので彼女らの個別ルートのその後は……
ということにもなってしまいますしね。


ただプレイしている間はキャラと掛け合いの良さやテキストの読みやすさ、大事な場面を飾るCG、物語を盛り上げる演出と音楽その他諸々の質の高さも相まって楽しめることは楽しめるんです。

しかし、一旦落ち着いて作品を思い返してみると、作品の骨組みとも言っていいシナリオの粗がちょっと多すぎないかと。

シナリオでの不満点はまだまだあるんですけど、それを全部書いていくのは気が滅入るので、一番気に入らなかった部分を言うと私個人としては朱璃ルートラストの展開です。


結論から言うと宗仁が帰ってくるのは駄目なんじゃないかなぁと。

いや私はビターエンドが好きなんでその辺もあるのは認めますけど、この作品で描いてきたことの締めがこれでいいの? って思うんですよ。


今まで散々皇国のゴミ捨て場として自分の世界を荒らされていた黒主大神さんがこっちの世界に降り積もった負の物質を全部消してくれるなら許すし、そっちの世界に漏れちゃった負の物質も全部引き取るよとあまりにも寛大過ぎる処置で納得してくれて、その約束を果たすために不老不死である宗仁は終わりのない戦いに身を投じることを「自分の忠義に従って」
決めるわけです。

ここ凄い重要だと思うんですよね。
本作はもう最初の方から忠義とは何ぞや~を宗仁やエルザを主に用いて説いてきた訳です。

それに従って宗仁は根の国に赴くわけですけど、何故か三ヶ月くらい戦っていたら今まで引っ込んでいた皇国の守護神が急に現れて不思議パワーでいや~すまんかった、お前ん家に押し付けてたゴミ全部ちゃんと捨てるわと根の国負の物質を全部消すんですよね。
それで晴れて宗仁も元の世界に戻れると。



……なんですかこれ、馬鹿にしてるんですかね? いや、プレイヤーが馬鹿にされてるだけなら良いですけど、宗仁の朱璃への忠義を貫く崇高な姿と今まで作品で大切に語っていたことを全部なぎ倒すかのような結果なんですけど……。

兵器ではなく人間としての意志こそが自分を強くするとかそういうのを色々やっていたのに最後は神様パワーで全部解決☆彡ってはーなにそれ。はー。


一万歩譲って帰ってくるにしても宗仁一人で何十年も戦い続けてやっと黒主大神との約束を果たし、朱璃が死ぬ間際に戻ってきて一時の再開を果たす~とかなら良かったんですけどね。神様パワーで解決かー。

この辺りもやっぱりユースティアとの差が出ているわけですよ、あちらはちゃんとティアの想いと決断を汲んであの結果になったので。
アレを見たプレイヤーとしては千桃の展開はおかしいでしょとなってしまう。



ただ宗仁の覚醒シーン、心刀合一の境地にたどり着いたところはかなり熱かったですね。

今まで武人(自分)は主のための刃、すなわち道具である。
そして宗仁が属する武人の流派・明義館の教え・心刀合一は全ての感情を殺し、真の道具、自分が思う真の武人にになった時にこそ到れるのだとずっと思っていて発言していた宗仁が、強く大切な感情があるからこそ強くなれる、戦える、ミツルギという兵器ではなく、鴇田宗仁という人間だからこそ到れるのだと悟る所は本当に良かった。

「心と刀が合一するならば、心こそ我が刃」

この一文は本当に震えました。
心刀合一もそうですけど、それまで色々なキャラと議論していた忠義とは何か? というのもこのシーンに込められているなぁと。自分の信じた意志を貫き通すこと、すなわち朱璃への忠義があるからこそそれで出来た刀は無敵になるっ
ていうのがもう好みすぎて濡れました。

それだけにそれを木っ端微塵にしたラストの展開が残念でなりません。どうしてこうなった。刀折れちゃったよ。


◆ビジュアル+演出+ムービー

オーガストの強味というと前二つは挙げなければなりません。

ビジュアルに関してですが、背景はいつも通り美麗でここでグダグダ書くより実際に見てもらったほうが良いですね。

原画・キャラクターデザインという面では大図書館の外伝から参加の夏野イオさんが今作から正式加入(?) されました。

私はべっかんこうさんよりイオさんのちょっと大人びた感じのデザインが好きだったので、これはとても嬉しかったですね。

またダブル原画になった影響かべっかんこうさんの絵も上手く言うことができないのですが、ちょっと今までとは違う印象を受けました。

全体としてはいつものロリ寄りのふっくらした可愛い系のデザインなんですが、塗りだけではなく、何かが違うなと(語彙貧弱マン)。
個人的には塗りと合わせて今までで一番良かったと思います。


塗りというと大図書館から結構変わっていて質が今作で跳ね上がったなというのが率直な感想なんですけど、一番良かったのは肌のそれですね。

大図書館の時はやたらと肌が白くてエロさという点ではかなり残念だったのですが、今作では肌色に近づいて色気も出ていて良かったなと。

あと今回、色気も女性らしさもない無地の白下着連打だった大図書館から打って変わって下着デザインに力が入っていますので、大図書館でそこの辺りにガッカリした方は期待して良いかと。

水着のデザインもとてもえっちで良かったです。特に滸。


演出ではユースティアから採用されている既存の立ち絵と背景を加工してイベントCGっぽく見せる疑似CGやそこまで行かないまでも例えば、「二階の窓からヒロインが外にいる主人公に向かって手を振っている」的なテキストがあれば実際にその窓に立ち絵を配置する、テレビの中継に顔ありキャラが出ているならばテレビの中に立ち絵とテロップを付けてそれっぽくするなど、他のメーカーなら背景と地の文表示だけで済ませてしまうようなところも既存の素材を使って上手く表現する技法が今回も採られているのが良かったですね。

CGを用意できるシーンには限りがありますからそれをこのようなもので補っているのが好印象。

また本作は戦闘シーンが多いこともあり3Dのエフェクトアニメ等も導入されており、場面を良く盛り上げていたなと。OP前ぐらいの滸VS宗仁のシーンなどは良く出来ています。

ただ戦闘という面では若干エフェクト、というかアニメに頼り過ぎで立ち絵を全く動かすことが出来ていなかったなと。ちょっと単調なんですよね。特に不知火の演出がクドい。

毎回エフェクトアニメを流すのではなく、斬撃と炎のエフェクトで素早く画面を切り替えていくとか色々やりようがあったと思います。

特にオーガストは立ち絵を用いた細やかな演出が得意なメーカーだと思っているので、勿体なかったなぁと。あとCGがもう少しあればメリハリが効いたかなと。

全体の枚数として見ると100枚を超えていて大ボリュームなんですけど、エロシーンもそこそこ用意されていたので、通常シーンが若干少なく見えたかなぁと。

かといってエロゲの華であるエロシーン削るとか言われたらキレる訳ですが。難しい。


あとはやはり演出は3Dが入ったことで進化はしていると思うのですが、個人的には画面を盛り上げることがより良く出来ていたのは前作・大図書館の羊飼いの方かなという思いもあります。

本作はシリアスなシーンの比重が大きいのでコメディ部分で色々暴れることが出来た前作と比べるのはちょっとアレなんですけどね。

オーガストの強味というとコンフィグの充実具合も挙がるんですけど、これは大図書館だかの感想で書いたものからそこまで変わっていないので省略。
付け加えるなら新たにゲームパッドでの操作、タブレットモードの追加など、より様々なユーザーのニーズに応えられる仕様となっています。


個人的にシナリオの次に本作でガッカリした点はムービーとボーカル曲の扱いですね。

まずオーガストのムービーは毎度社内の方が作っている関係上、質自体があまりよろしくないのはいつも通り残念なんですけど、それ以上に許せないのがOP曲・嗚呼 絢爛の泡沫が如くが作中で一切使われないこと。

本編で流れるのはテーマ曲の桃花染に咲いてを使った新規ムービーのみ。
嗚呼 絢爛の泡沫が如くはタイトル画面放置で流れるだけと酷い扱い。OP曲とは一体何だったのか。

またイメージソングの刃濤舞うも使われませんでしたねぇ……戦闘とかで使えそうだったので、挿入歌として使うのだろうなと楽しみにしていたのですが……まあイメージソングだからゲームには使わないというのは分かりますし、なんでもかんでもボーカル曲流せばいいという訳でもないのは百も承知なんですけど、折角その作品用に作った良い出来のものを使わないのは勿体無いよなぁと。

使えるだろうという箇所があったのも余計にその思いを強くさせます。

はっきり言って良い素材を用意しているのにその使い方が雑すぎないかと。
今回のボーカル曲関連のそれはあまりにも酷くて割りと怒ってます。


◆えっちなしーん

朱璃……3
滸、古杜音、奏海、エルザ……それぞれ4
睦美、紫乃、小柚、緋彌之命……それぞれ1
朱璃&緋彌之命の3P……1

本作のエロはオーガスト作品で初めて“使いました”。

元々シーン内容自体は良く、尺も十分だったのでやはり今回で塗りが変わって視覚的なエロさが強く出たのが決め手ですね。下着デザインもかなり良くなりましたし。

まあ残念なのは睦美さんにフェラがないというのと滸の水着姿とエルザの軍服立ち絵のお尻に惹かれた身としてはそれを推してくるようなエロがなかったことですかね。

FDでこれらの追加はよ。睦美さんともっとえっちしたい。あと雪花さんともえっちさせてくださいお願いします。

また今回もエロシーンのみ主人公ボイスオフ可、CGをより見やすいように簡略化したウィンドウを選択可能とサポートも充実していますのでご安心を。


感想は以上です。

千桃は面白いことは面白かったんですけど、やはり期待を予想よりも下回ってきて裏切られた感が強く出たのと制作側の迷走を感じられたのがマイナスでしたね。

もしまたシリアス系で挑むのならばもっと割り切って作ってもらいたいなと。相変わらず好きなメーカーではあるので、頑張って欲しいですね。